建設現場でがんばる若手ゼネコンマンへ 〜その26〜

【再び、異動になりました】

2度目の現場での挫折から、運良く天職の場所に復帰して、しばらく経った頃でした。

また、僕に異動の打診がありました。

今回は現場では無く、”東京支店購買部”でした。

調達と購買。

予備方は違いますが、僕たちが行う業務内容は概ね同じ感じでした。

ただ、本社調達と支店購買の棲み分けとして、取り扱うアイテム(工種)が異なりました。

ざっくり言うと、本社調達では鉄骨みたいに商社が絡むなどの金額ボリュームが大きいものやカーテンウォール、アルミ建具、シャッターなど全国展開しているメーカーとのやり取りが発生するものを主体に取り扱っていました。

一方、支店購買では、鳶工・土工・鉄筋工・型枠工・鍛治工など、主に労務主体のアイテムを扱っていました。

さて、異動についてですが、

「今、支店の購買が苦戦してる。業者との交渉が上手くまとまらず、請書(契約)が滞っていて、現場が困っているらしい。」
「お前が行って、立て直してくれないか。」

恩人のひとりであるUさんから、そう言われました。

やはり、異動は嫌なものですが、今回は少し違いました。

ひとつは、行き先が支店購買部ということで、現場じゃないというのはもちろんですが、『このまま得意技をいかせそうだ』というイメージがあったこと。

そして、もうひとつは「お前が行って、立て直してくれないか。」と言われたことです。

これ、どう考えても期待されてますよね?
しかも、明確に僕の実績を認めた上で、そのスキルを求められてますよね?

何より、『信頼』されてますよね?

“そんなの踊らされてるだけ”という人もいると思います。
もしかしたら、その通りかも?
だとしたら、僕は思いっきり踊らされました。

『これは期待に応えなきゃ。恩返しするチャンスだ。』

そう、思ってしまったので。

僕は、”東京支店購買部”に異動になりました。
(異動直後に、調達・購買部に名称変更になりました。)

ただ、この異動に当たって、不安な点がありました。

それは、業務内容では無く、”人事権”です。

今までは、本社調達部所属だったので、人事権も本社管轄になっていました。
当然、会社全体で人事をやっているので、各支店との連絡・調整はあったと思いますが、建て付けとしては、本社管轄でした。
本社は、現場を直轄していないので、直接”現場異動”なはなることはありません。

前回、僕が現場異動になったのも、本社と支店が調整した結果によるものです。

ところが、支店購買部の配属になると、人事権も支店人事部に移ります。

これでどうなるかというと、支店長の指示により、いつでも現場配属の指示が出される可能性があるということです。

当時は「現場配属社員が足らなくなってきている」との話がチラホラ出ており、内心穏やかではありませんでした。

とは言え、今回の異動は、前回のような定期異動では無く、ある意味、指名されての異動です。
とにかく、支店購買部で全力を尽くす覚悟で異動しました。

僕の担当は、鳶工・土工・鍛治工でした。

行ってみると、そこまでボロボロとかギスギスと殺気だってるとかは無く、現状を聞いてみれば、『ちょっとした相手との交渉のコツだったり、全体を見通した上で、”どうするべきか?”の割切りとか判断が上手くいって無いために、滞っているのではないか?』とわかりました。

特にこの労務関係は、請負契約が遅れれば、現場にすぐに影響が出るので、専門業者さんも現場も困ってしまいます。
しっかり交渉をしながらも、お互いの合意点をスピーディーに見出さなければなりません。

この労務関係は、専門業者の競争見積では無く、”現場から推薦された業者さん1社と、業務内容から見積を金額を査定し、金額交渉する”というものでした。
このやり方だと「金額が高止まりするのでは無いか?」と思うかも知れませんが、そこは長いお付き合い故の信頼関係があるので、明細項目についての単価感覚も概ね共有出来ていたりで、そこはあまり大きな問題ではありませんでした。

この金額合意についての大きなポイントは、”それぞれの現場事情によるところ”にありました。

どういうことか?

ひとつは、文字通り、”現場の事情”です。
例えば、周辺環境から夜間工事が非常に多くなる現場だったり、非常に狭い敷地と道路で、資材の搬出入に手間がかかったり、作業効率が著しく悪い状況だったりすれば、それ相当な割増になります。
こちらも当然、ある程度の割増は見込みますが、そこの見立て・考え方の違いで議論が生じることがあります。

もうひとつは、その専門業者さんと現場所長が初めての組み合わせだった時に、やや交渉が難航する時があります。
もう少し踏み込んで言えば、その現場所長が工事担当時代に、その専門業者さんと一緒にやったことがあり、その時の印象が良くないと、なかなか難しくなることがあります。

つまり、その時に”しっかりやってくれる人だな”、”頼りになる人だな”と思ってもらえなかった、ということです。
信頼関係が築けていなかったんですね。

このような話を聞くと、正直、『専門業者さんは、本当によく見ているな』と思いました。

なので、そういう時は、専門業者さんの心配事・要望事項をざっくばらんに挙げてもらい、僕がその点について、現場所長に確認・了解を頂き、それを踏まえて金額合意としました。
所長自身、気づいていないことが多いので、そのようなことをお伝えするとかえって喜ばれ、現場がスムーズに進んでいきました。
もちろん、専門業者さんにも喜ばれ、僕と専門業者さんとの信頼関係も築くことが出来ました。

という感じで、購買部の業務もなんとか良い感じに進められるようになっていきました。

状況が改善されたことで購買部長にも喜んで頂けて、僕自身、やりがいと手応えを感じていました。

そうして、購買部での日々も概ね順調に過ぎていきました。

しかし・・・。