【『プロジェクトマネジャーはフィードバックのスキルが必要だと思うよ』という話】
建築プロジェクトにおいて、僕たちプロジェクトマネジャーは、ある意味直接のプレイヤーではありません。
プロジェクトマネジャーの仕事は、発注者が初期の目的を果たすために、プロジェクト関係者を含めたプロジェクト全体をハンドリングしながら、目的達成に導くことです。
そのために、発注者・設計者・施工者それぞれの思いや良さを最大限に引き出しすことが、プロジェクト成功の鍵と言えます。
具体的に言うと、特に設計者・施工者に対して、自分の頭の中にあるベストな状態明確にイメージし、それに対して達してない部分を指摘するという作業です。
この指摘で設計者・施工者はより品質・性能が高い建物が造れたり、デザイン的にクオリティを高められることがあります。
特に設計段階で、設計者の提案が発注者の要望のポイントから少しズレていることがあったりして、『う〜ん、違うんだよな〜』と思ったりすることも多々あったりします。
ただ、この時の指摘・フィードバックの仕方がとても大事だと感じています。
どういう風にフィードバックをするかというと、まず基本的には共感します。
「お〜、いい感じですね」とか、認めるところから入ります。
言いたいことを誤魔化す訳では無く、その中で良いところを見つけて、まずはそこに対して寄り添う。
そもそもこの設計者は、基本的にプロジェクトの主旨を理解して、さらには何らかの競争を勝ち抜いてこのプロジェクトの設計者のポジションを得ているので、そこまでズレた内容は初期の段階でもそうそうありません。
なので、まず純粋にそこまでやった仕事に対して敬意を表する気持ちです。
設計作業はめちゃくちゃ大変で、さらに、担当者(設計責任者)が本気でやってるほど、いろんなアイディアや工夫、いろんな思いを乗せて提案していることがほとんどです。
なので、まずはその思いを一旦汲み取ることが大切で、そこを潰してしまうと、設計者のやる気を奪ったり、迷いを生じさせることになり、その後の流れが良くない状態になる可能性があります。
なので、ちょっと直すべきところがあったり、ズレていたりしても基本的には「お〜、いい感じですね」と共感する視点・気持ちが大事だと思います。
ただし、そうは言っても、まったくダメな場合もごく僅かですがあります。
そのような場合は、そもそも発注(募集)・選定の段階で、”発注要項書(要求水準書)に不備があったか?”、”選定・評価方法が良くなかったか?”など、発注側の問題があったと考えられます。
(僕たちが発注段階から関われば、このようなことが起こらないように、発注内容・方法は最適化を図って進めます。発注者側で独自に募集・評価等を行なって、設計者が選定された後にプロジェクトマネジャーとして参画した場合などこのような問題が発覚するケースがあります。)
つまり、前提の部分に問題がある可能性があるということもあるので話はちょっと複雑になりますが。
このように、何らかの問題がある中、ミスマッチで選定されてしまった場合、選ばれた側もある意味被害者である訳ですが、とは言え修正や改善が必要な場合は対応してもらわなければなりません。
そうなれば、設計者の主張や提案をやんわりと退け、違う方向性を提示することになります。
人間否定されれば嫌な気分がするし、やる気がなくなりますよね?
なので、極力否定的な表現は避けて、気付きを促しながら、改善へ導こうとします。
しかし、本当にガンとして受け入れようとせずに、我を通そうとする人がいるんですね。
それが、発注者のためになる真っ当な主張で、取り入れる価値があるならいいんですが、発注者にとって特段のメリット無く、単純に設計者のエゴだとしたら。
これは、当然認めることも受け入れることもできません。
そして、どんどん敵と味方みたいになってしまい、本来は良い建物を造ることを同じ目的としてやってるはずなのに、こっちはダメ出しして設計者の言い訳を潰すのが仕事になり、設計者は僕らを言いくるめるのが目的になるという、何ともおかしなことになったりします。
こうなると、かなり深刻で発注者に、したくないであろう厳しい決断をお願いすることになったり、みんなが不幸せな状態に陥ってしまいます。
ちょっと最悪なケースに話が逸れましたが、まあ大体のプロジェクトは良好な関係でスタートします。
なので、基本的には共感して、”さらに良くするには”だったり、”発注者の要望のポイントを念押しして気づかせる”などを伝え、設計者の+ αの能力とモチベーションを引き出すのことを心掛けています。
能力とモチベーションを引き出すということで言えば、やはり”その仕事に集中できる環境を整える”ということが大切になってきます。
あるプロジェクトで、優秀な設計者の方が責任者としてアサインされたのですが、彼は社内の他のいくつかの案件も掛け持ちされていて、その影響で徐々にスケジュールの遅れと提出物のクオリティが落ちてきました。
『このままでは、良くない方向に進む』と考えた僕は、その彼のさらに上司の方と面談の機会を持ちました。
その席で僕は、プロジェクトと彼の現状を伝えました。
すると、上司の方から”彼(設計者)が本件に投入する労力を増やせるように業務調整する”、”彼の指示で作業するサポートをつける”と快く約束して頂き、実行して頂きました。
おかげで、プロジェクトは無事に軌道に戻りました。
やはり、プロジェクト関係者が最適なパフォーマンスを発揮するには環境は大事で、プロジェクトマネジャーとして、その環境整備まで含めて最適化を図れるように最善を尽くすべきと思いました。
状況を理解し、必要な対策を講じて頂いた上司の方にも感謝です。
プロジェクトマネジャーは、設計者など人が出してきた成果物に対して指摘・フィードバックを通じて、間違いがないように、さらにクオリティを上げるように努めます。
「これで良いのか?」「さらに良くするためにはどうしたらいいんだろうと?」と一緒に悩み、考えてもらって、目的に向かって旗を振りながら一緒に進んでいく仕事です。
そのためには、発注者・設計者・施工者、その他の関係者との信頼関係が欠かせません。
であれば、みんなが気持ちよく仕事ができる環境構築にも気を配る必要があります。
やはり、言葉・コミュニケーションは大切で、気持ちが交錯する指摘・フィードバックは上手に行えるように勉強していかないといけないと思っています。
『プロジェクトマネジャーはフィードバックのスキルが必要だと思うよ』というお話しでした。
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諏訪寛 (著) 形式: Kindle版