【なぜ、日本版CCRCはうまくいかないのか?~「シン・二ホン」にヒントがあった~】

僕達が目指している新世界の集落『風の谷ヴィレッジ』ですが、僕の中でその原点は“CCRC”でした。

CCRCとは「Continuing Care Retirement Community」の略称で、高齢者が健康な段階で入居し、終身で暮らすことができる生活共同体のことをいいます。
この概念は1970年代のアメリカではじまりました。

米国のCCRCは、全米で約2000カ所、約70万人が居住しており、市場規模は3兆円」ともいわれる、一大マーケットを形成しています。
通常の介護施設と異なる点は、元気なうちからコミュニティに移り住むこと、そして、いずれ医療や介護が必要になっても他の施設へ移る必要はなく、ずっと同じ場所で適切なケアを受けながら暮らせることです。

CCRCでは、健康を促進するべく食事や運動などトータルで予防医療に取り組んでおり、仕事をしたり学校に通ったり趣味を楽しんだりと、高齢者が生きがいをもって暮らせるようなプログラムやサービスが充実しています。

このCCRCの仕組みを、日本の社会に合うようにと考案されたのが「日本版CCRC構想」です。

日本版CCRC構想は2015年に発足した“日本版CCRC構想有識者会議”において「東京圏をはじめとする都市部で生活する高齢者が、自らの希望に応じて地方に移り住み、地域社会において健康でアクティブな生活を送るとともに、医療介護が必要な時には継続的なケアを受けることができるような地域づくり」を目指すものとして始まりました。

この構想の意義としては

「高齢者の希望の実現」
「地方への人の流れの推進」
「東京圏の高齢化問題への対応」

の3つがあげられています。

そして、日本版CCRC構想の基本コンセプトは、以下の7点です。

・東京圏をはじめ、地域の高齢者の希望に応じた地方や「まちなか」への移住の支援
・「健康でアクティブな生活」の実現
・地域社会(多世代)との協働
・「継続的なケア」の確保
・IT活用などによる効率的なサービス提供
・居住者の参画・情報公開等による透明性の高い事業運営
・構想の実現に向けた多様な支援

引用元)日本版 CCRC 構想有識者会議『「生涯活躍のまち」構想(最終報告)』

いわゆる「老後生活」という言葉から連想されるような受け身のイメージや消極的な生活ではなく、健康なうちから希望の地方へ移住し、積極的に社会参加をしてアクティブに暮らすことがCCRCの狙いです。

日本版CCRC構想には、東京圏への人口集中が進む中、高齢者の地方移住によってその流れに歯止めをかけ、地方の人口減少を抑制することと共に地方創生に貢献することも期待されています。

東京圏の高齢者増加による医療介護人材不足が深刻化するなどの問題解決としても非常に意義のある取り組みだと考えられています。

日本版CCRC構想の意義の1つに「高齢者の希望の実現」とありますが、その希望であるはずの地方移住を望む高齢者はそれほど多くないことが実態としてわかってきています。
長く住んだ自宅を離れて遠い場所へ移住するのは、高齢者にとって非常に勇気のいることで、特に女性はその傾向が強く、移住を望んでいないことが顕著です。
仮に、多くの高齢者が移住を望み実際に移住したとしても、そこでの生活を支える人材と仕組みが不可欠です。
移住に慎重になる理由として、移住先でのコミュニティの問題もあると思いますが、そもそも“安全・安心で快適な生活が送れるのか?”という根本の問題があります。

日本版CCRC構想を成功させるには、高齢者だけでなく多世代が住みたいと思う魅力的なまちづくりが必要なのは明らかで、移住を受け入れる側としての環境整備が不可欠な訳です。

とは言え、日本版CCRC構想が、急激に少子高齢化に向かう日本にとって“一筋の光”となり得ると考えられていました。

しかし、2021年を迎えた今、現実問題として、どうやらこれはかなり厳しい状況のようです。

何故なら、一向に地方移住は進んでおらず、相変わらず東京を中心とした首都圏への人口流入に歯止めがかかっていません。

総務省統計局の最新の“都道府県別人口と人口増減率”で、平成30年度における対前年の人口増減率を見ると、東京をはじめとした千葉・神奈川・埼玉の一都三県、それと愛知・沖縄、わずかに福岡で人口が増加しており、それ以外は全て人口が減っています。

特に、東京は∔7.2ポイントで、東京への一極集中といっても過言ではありません。

安宅和人さんは著書「シン・二ホン」でこう記しています。

『ブレードランナー』はハイパー都市セントリックな未来の舞台で、人造人間と人間の相剋を描いたSFの名作だ。
この映画の中では高層ビル群が立ち並んだ人口過密の大都市以外は捨てられ、人の住めない土地になっている。
奇しくも今この原稿を書いている2019年11月はブレードランナーが舞台として描いた世界と同じ年の同じ月だ。
この未来がまだ来ていないことに安堵する。

確かに、このままでは“ブレードランナー的世界”がやってきそうです。

しかし、これはわかっていたはずです。

だからこその“日本版CCRC構想”だったはずです。

ただ、現実は理想と真逆の方向に、その勢いを緩めることなく進んでいっています。

この課題は僕にも見えていました。

だから、いろいろと自分なりに取り組んできていましたが、その流れを変えることはできませんでした。

わずか、自分の周りの状況も変えることができていません。

もちろん、ひとりでできるものではないのはわかっていました。
だから、多くの地方自治体の方ともお話ししました。
人口減少はその自治体における大きな課題となっており、そのために協力できる、同じ課題を共有し協働できると考えていました。

しかし、現実はなかなかうまく進みませんでした。

『なぜなのか?』『どうすればよいか?』

そのヒントも「シン・二ホン」にありました。

課題解決には大きく2つの型がある。
1つは、あるべき姿が明確なタイプの課題解決(タイプA)。
もう1つが、あるべき姿(ゴールイメージ)から定める必要があるタイプの課題解決(タイプB)。
タイプAの課題解決の場合、あるべき姿は明快であり、今の状況が一体何に由来するものかを正しく見極められれば、通常、それに沿った打ち手(ソリューション)を提供することで解決できる。
おそらく、世の中の課題解決の9割かそれ以上を占めると思われる。
タイプBの場合の課題解決はまったく異なる。
そもそも、どういう姿になるべきなのか(ゴール、目指すべき姿)の見極めから課題解決を始めなくてはならない。
そうしないと、現状の診断すらできないのだ。
現状の見極めから始まるタイプAとは真逆のアプローチなのである。
じかも、仮にどういう姿になるべきかが見えたとして、どのようにしたらそこにたどり着けるかの明確な答えも簡単には見つからない。
このタイプの課題解決は、世の中の課題解決の1割もあるかどうかだと思うが、これこそが、データ×AI時代に人間に求められる真の課題解決だ。

この「風の谷を創る」(奇しくも安宅さんも“風の谷”というキーワードを提唱しておられます)の課題解決は典型的なタイプBで、それも特大の複雑性(complexity)を持つものだ。
これを世界中の知恵と試みる力を募って取り組んでいけたら、そう願っている。

なるほど。

僕達が解決しようとしていたのは、“世の中の課題解決の1割もあるかどうか”の“典型的なタイプBで、それも特大の複雑性(complexity)を持つもの”ということです。

そもそも、かなり難解な問いに突っ込んでいた、と。
道理でめちゃくちゃ難しい訳ですね。
(薄々そんな気がしていましたが・・・)

ならば、やはり割り切って、腹をくくって【やってみる】しかないですね。

考えたこと、信じることをどんどんチャレンジしていく他に道はないようです。

時代は、風の時代を迎えました。

風の時代のキーワードは、“革新・共有・横のつながり・個人・心の喜び・協力・助け合い”などだそうです。

風の時代に『風の谷を創る』

時代に後押ししてもらいながら、極めて難しい課題解決に挑戦していきたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です